「工数」と「工期」の違いと、見積書の関係(後編)

プロジェクトの見積書を作成するとき、あなたは顧客に費用の内訳をきちんと説明できますか?

プロジェクトで作成する見積もりと、「工数」と「工期」は密接な関係があります。

後編では、「工数」と「工期」と見積もりの関係を説明していくよ!

前編がまだの方は、前編からお読みいただければと思います。

「工数」と「工期」の違いと、見積書の関係(前編)
プロジェクトにおける「工数」と「工期」の違い、あなたはきちんと説明できますか? この違いは、見積書を作る際にも意識する必要があります。 前編で「工数」と「工期」の違いを、後編で、見積書にどう影響するのかを説明していくよ! 【概念】「工数」と...
  • プロジェクトの見積もりを構成する要素
  • 「工期」を基に見積もる「間接費」
  • 「工数」を基に見積もる「直接費」
  • 「間接費」は顧客に理解されにくい

プロジェクトの見積もりを構成する要素

まずは、見積もりを構成する主な要素を見てみましょう。

見積もり項目名概要費用分類
・プロジェクトチーム維持費プロジェクトチームの維持管理に必要なコスト間接費
 ・プロジェクト管理費プロジェクトの進捗確認や予実管理を行うためのコスト間接費
 ・チーム内会議費プロジェクトチーム内の定例会議(朝会など)を行うためのコスト間接費
・プロジェクト作業費プロジェクトの成果物の作成に必要なコスト直接費
 ・要件定義作業費要件定義を行うためのコスト直接費
 ・設計作業費設計を行うためのコスト直接費
 ・開発作業費開発を行うためのコスト直接費
 ・テスト作業費テストを行うためのコスト直接費
 ・リリース作業費リリースを行うためのコスト直接費

ここで重要なのは、「間接費」と「直接費」という2つの費用の分類です。

上の表の概要欄にも書きましたが、
「間接費」とは、プロジェクトチームの運営、維持、管理に必要な費用で、
プロジェクトマネージャーによる予実管理や、プロジェクトチームの朝会などのコミュニケーションコストに充てられます。

「直接費」とは、プロジェクトの成果物を作成するための費用で、主に設計、開発、テストなどに作業コストがそれにあたります。
こちらは分かりやすいですね。

ここまでのまとめ

間接費:「工期」を基に見積もる費用です。

直接費:「工数」を基に見積もる費用です。

次の章で、具体例を交えて理解を進めていきましょう。

「工期」を基に見積もる「間接費」

「間接費」は、プロジェクトが続く限り発生し続ける性質を持ちます。

つまり、「工期」を基に算出する必要があるのです。

以下のような条件のプロジェクトを例に、間接費がどの程度必要になるかを見てみましょう。

  • 要員数:3名
  • プロジェクトの作業工数:30人日
  • プロジェクト期間:3か月(60日間)
  • 朝会の実施頻度と時間:毎朝30分(0.5時間)
  • 毎日のプロジェクト管理工数:1時間

まず、3か月間で発生する「プロジェクトの管理工数」は以下の計算です。

3か月(60日間) x 1時間 = 60時間(7.5人日)

次に、3か月間で発生する「朝会の工数」は以下の計算です。

3か月(60日間) x 30分(0.5時間) x 3名 = 90時間(11.25人日)

上記を合計すると、

60時間(7.5人日) + 90時間(11.25人日) = 150時間(18.75人日)

あくまで一例ですが、
3名3か月のプロジェクトでは、プロジェクトの作業工数とは別に、ほぼ1人月の「間接工数」が発生することが分かります。
顧客への提案金額に換算すると、大体120~140万となります。

実際に計算してみると、その金額の大きさに驚きますね。

しかしこの間接コストは、プロジェクトが進行する限り日々確実に発生しており、
見積もりに必ず含める必要があります。

また、プロジェクト期間が延長になった場合も、
当然その期間に応じた「間接費」の追加請求を行わなければなりません。

「工数」を基に見積もる「直接費」

「直接費」は単純で、プロジェクトの成果物を作成するために必要な、作業の「工数」を基に算出します。

開発やテスト、リリースなどの、普段から馴染みのある作業の工数ですね。

これらの工数は、単純にプロジェクト期間が伸びたからといって、変動するものではありません。
※作業内容が変わった場合は、当然増減します。

前章の「プロジェクトの作業工数:30人日」の例を基に考えると、内訳は以下のような感じでしょうか。

  • プロジェクトの作業工数:30人日
    • 要件定義工数:8人日
    • 設計工数:5人日
    • 開発工数:10人日
    • テスト工数:5人日
    • リリース工数:2人日

顧客への提案金額に換算すると、大体180~200万となります。

前章の「間接費」と合算すると、
このプロジェクトの提案金額は、おおよそ300~340万となりそうです。

「間接費」は顧客に理解されにくい

今回例では、費用内訳は以下の通りでした。

間接費:約120万
直接費:約180万

比率にすると以下となります。

間接費 : 直接費 = 2 : 3

いかがでしょうか、思いのほか大きな間接費の割合に驚いたのではないでしょうか。

さてこの間接費、困ったことにプロジェクト全体の費用に占める割合の大きさも災いして、
顧客理解を得づらい項目の筆頭です。

私自身も過去に顧客から、
「なぜ御社内の管理コストを弊社が負担しなければならないのか?」と言われたことがあります。

しかしこれはプロジェクトマネジメントやチームビルディングを理解していない方の考えで、
「間接費」(特にチーム内会議費)は、プロジェクトの成果物の品質維持に欠かせない費用です。

「間接費」をカットするということは、「品質を犠牲にしてください」と言っているのと同義なのです。

プロジェクトにおいて、適切に設定された品質を下げるという判断はあり得ません。

プロジェクトマネージャーは、プロジェクトマネジメントのプロフェッショナルとして、この要求を飲んではいけません。
プロジェクト管理費の世間相場や、朝会などのチーム内コミュニケーションの重要性を辛抱強く説明し、理解を得ましょう。

どうしても顧客理解が得られない場合は、以下の2つの選択肢を上長に相談してください。

  1. 会社の戦略的判断に基づき、低利益率プロジェクトとして進める。
    • プロジェクト管理や朝会などは、必要に応じてしっかり実施すること。
    • 「低利益率で進める」という社内合意は、必ず文章で残すこと。(後で揉めます)
  2. 案件を断る
    • 暴論に聞こえるかもしれませんが、この手のクライアントとは長期的な相互利益の関係を築きにくく、
      案件を受けるメリットが少ないです。(会社の利益率と離職率にも悪影響が出ます)

まとめ

いかがでしたでしょうか。

この記事は、必要だが実態のよく分からない「間接費」を理解し、
相手に説明できるようになる、という目的を持って書きました。

自分が理解できていない物事を、誰かに説明して理解させることは不可能です。
まずはあなたご自身が、見積もりの構成をしっかり理解することを目指しましょう。

  • 「間接費」とは、「工期」に対して発生する費用。
  • 「直接費」とは、「工数」に対して発生する費用。
  • 「間接費」と「直接費」の割合は2:3程度。
    ※規模の大きなプロジェクトの場合、1:1近くになる場合もある。
  • 「間接費」はプロジェクトの成果物の品質に直結する。

当記事があなたのシステム開発ライフの一助になれば幸いです。

当記事のステップアップ図書

「プロジェクトマネジメント」実践講座

私が勝手に敬愛する伊藤大輔さんの本です。

実践寄りの本ですが、未経験者が読んでも理解しやすいと思います。
(この方は、物事をかみ砕いて説明するのがとても上手です。)
困ったところだけをピンポイントに読めるようになっている構成も秀逸です。

外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント

人間模様を軸にした、プロジェクトマネジメントの教本。
ある程度プロジェクトマネジメントを経験した人が読むと、「あるある」と共感しながら読めます。

これからの方も、できるプロジェクトマネージャーの立ち回りや考え方を知るのに役立つ一冊です。

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